『シャンブル』全曲レビュー … 09) 水の戯れ 〜ランチャのテーマ〜

  • 長年、私のなかでEBI様と稲垣吾郎さんは心の同じ引き出しに入ってきたものだが、2004年からはその引き出しに堺雅人さんも加わった。
  • それで作詞作曲がかの人のこの曲を、堺雅人出演でPVにしたいもんだと勝手にもやもや思うのである。吾郎さんでもいいんだけど、この明るい哀しみはやっぱりあの煮え切らない顔で見たい(褒めてんのかそれは)。
  • 薄曇りの日、こざっぱりした集合住宅で堺雅人が洗面所を掃除しているわけである。掃除のこと以外考えまいという顔で磨いている。ぴかぴかになったシンクを流して蛇口を閉めた。しかし水は止まらない。え?え?とあわててるうちに部屋がプールになる。
  • 駐車場のランチア・テーマも浮いている。沈んだ水槽からネオンテトラの一団が泳ぎ出て、赤と青のうろこをひらめかせて去っていく。
  • なすすべなくバスタブにつかまって浮かぶ堺雅人の前を、象に乗った男女が過ぎる。実物ではない。最後に行った海外旅行の写真だ。象の上は思った以上に高かった。ひきつった自分の笑顔が流されていく。
  • それで間奏が終ると潮風がそよぎ、にゃーにゃー鳴く鳥が飛んでいる。どうやら海に出ちゃった堺雅人である。
  • ランチアの屋根で漂流する彼の胸に哀しみが満ちる。でもふと悟るのである。失ったもののすべてに「またいつか会えるんだな…」と。なんというもののあはれ
  • 妄想映像の暴走はさておき、ジャングルビートがこんなに切なく聞こえる曲を私は知らない。ある意味ガサツな奥田さんの歌声が、状況を客観視させてよけい心にしみる。二度とありえないと思っていたこの作・歌の組合せ、いやー思いがけなくいいね。アルバムで一番好きな曲のひとつかもしれない。
  • 歌詞カードで、この曲のところだけ水紋が見えるのも心憎い意匠といえよう。