『シャンブル』全曲レビュー … 14) パープルピープル

  • メルヘンからうってかわって、シンプルなオフビートと川西幸一のいなせな詞の世界が展開する。まこと、粋でいなせとはこのことよ。
  • 年取ったからって偉そうな顔してる暇はないぜ、いつだってハダカで勝負してやるぜ……と年齢不詳の金髪のドラマーは言う。別に余裕なんかない、内心ボロボロさ、だけどと奴は顔を上げ、「悪かないぜ」にやりと笑うわけである。くあーかっけえー! ついていくッス川西のアニキ! 舎弟にしてくれッス! 無理ならおよめさんにしてー! もっと無理っていうかその二者択一はおかしい。
  • そんな男前な歌詞が、一方で「お」弁当、「お」湯だものね。惚れないほうがどうかしている。ってここまでひたすらに詞ばかり取り上げて、作曲と歌までも歌っている奥田さんの立場は。
  • いや、しかし不思議なものでね。言葉を書く人が前曲と変わっただけなのに、まったく違うメンバーの曲に聞こえるんだよなー。もちろん曲調が違うとか、奥田さんの歌い分けが上手いとか(今からフォロー?)いった理由もあるにせよ。あと私がことさら「言葉」を聴きがちなリスナーだというのも否定できないけど。歌詞なんて聴かなくていいんだみたいなことを確か言っていた奥田さんからすると、邪道な聴き手だろうか。でもあれは額面どおり受け取るのは怪しいっつうか、歌詞がどうでもいいなら別に生涯「狂ったコンクリートジャングル」とか歌ってたっていいわけで。歌詞も音楽の一部、字面だけ切り離して取り沙汰するな、あたりが本音ではあろうか。それなら一応私も心がけてるつもりなのです。閑話休題
  • それで言葉をさらにうざく聴いていると、もしかしていわゆる「奥田民生」のパブリックイメージってのもこの歌詞っぽいか?と思えてきた。風に吹かれて自由に行くぜ〜みたいな。経験なんていらないぜ〜みたいな。
  • 私にとっては奥田という人の印象は、「自然体でいられるために全力を尽くす人」である。あんまり根っから自由に生きてる感じはしないな。そもそも根っから自然体の人なんてテレビに出せないぞ。棋士宮田敦史五段がいい例だろう(だから助けにならない例えを出すなと)。
  • あと経験とか積み重ねとか、意外に大事にする人ではとも思う。インタビューでよく「あのときあれをやってそれをやって、だから今これをやる気になった」みたいな言い方をするし。
  • 翻って川西幸一である。私は最近、ずっとこの人をある面で誤解していたのではと思い始めた。あの素朴な顔立ちでしょ? ガテン系の体格でしょ? それこさ石の上にも三年、カンナがけは十年やって一人前だ!的な哲学の持ち主と思ってた気がするんですよ。ドラムはいちんち30時間、己を無にして仕事仕事!的な。
  • たぶん違うんですよ。確かにあの人はいちんち40時間叩くんだけど、それは自分が面白いからやるんで、形の決まった「お仕事」になったとたんにやる気が失せるんですよ。どうやら。前回ユニコーンを抜けたときに「決まったことの繰り返しが嫌になった」と語っていたのは、(細かなきっかけは他にいろいろあったとしても、本質的には)掛け値なしの真実だったんじゃ?と思うのです。今になって。
  • だから今回の話を持ちかけた阿部も「再結成」とは言わず「今の5人が音を出したらどんなふうになるか」という言い方で川西くんの興味を煽った……いや、「だから」かどうかは知らないけど。でも川西くんがつねに過去はほっといて、何か新しいことに惹かれていく人なんだというのは、今回明らかになった気がする。新しいことであれば古いメンバーとだってやる。いや、古い新しいじゃなく楽しいメンバーだからやる。楽しいと思えるうちは。なんという危険な男……(うっとり)
  • うっとりは回線切ってからやれ。ですからね、「経験なんてなくなったっていい」「自由を求めてゼロから」というのは川西くんの口から出る限り、いろいろ背負ったオヤジの見果てぬ夢などではなく、単なる本心だなと。遺伝学的にその顔にマッチするはずのない(←しつこいな)金髪が妙に似合ってしまうのも、ユニコーンをよく知らん奴から齢49にして「ビジュアル担当」(!)と誤解された不思議な華も、内面のその自由さから来てるんじゃないだろうか。ほんと顔に騙されてた。勝手にだけど。
  • そんな自由な男の歌を、実は地道な男(笑)が歌唱力を尽くして表現する。16年ぶりに叶った、実に味わい深い光景ではないか。