『シャンブル』全曲レビュー … 01) ひまわり

  • アルバムより先にTV番組で聴いた。1時間の番組のラストがこれで、結論から言うとそれはややもったいない聴き方だった。番組の音質に怒ってる方の言うような理由で音自体をちょっと弱く聴いてしまったかもしれないし、やっぱりこの曲は、何もない空間をぽっと照らすオープニングであるべきだ。いつもどこでも。
  • 何もない空間に阿部のキーボードが点り、奥田のギターと歌が始まる。しばらく二人の姿だけ見えていて、聞き覚えのあるシンバルとギターがかぶさってくる。どしゃーんとドラムが鳴って光が満ちて、川西さんと手島さんがいる。いつのまにか澄ました顔でEBIさんもベースを弾いている。5人揃ってる。5人揃ってアルバムが始まる。
  • 思い入れのない人には「だからなんだ」で終るだろう、奇跡の光景だ。だって16年経ってるんだよ。16年も経ってればファンのなかには、こんな日が来るのを知らずに死んじゃった人だっているはずだよ。メンバーでもおととしくらいまで知らなかったらしいから。使いすぎて安っぽくなりがちな奇跡という言葉を、ここには使ったってまあバチは当たるまいと思う光景だ。
  • という難儀な思い入れに、しかしふっと肩透かしを食らわすのが従前のユニコーンの得意技だったとは思う。歴代のアルバムのオープニングタイトル……『ハッタリ』『命果てるまで』『ターボ意味無し』なめとんのか本当に。いやどれも傑作ですけどね。
  • 実際アルバムメイキングのDVDでは、曲順について奥田さんが『HELLO』で始まって『キミトデカケタ』で終るのはどうだなどと極めてふざけたことをおっしゃっていて(大笑いしました)肩透かしのツボは衰えていないのである。しかし現実のアルバムは『ひまわり』で始まって『HELLO』で終る。難儀な思い入れを拒絶されなくって、ひねこびた古リスナーはちょっとびっくりする。
  • 『ひまわり』の作詞作曲は阿部義晴。『人生は上々だ』の派手なパフォーマンスのイメージが強い人には、もしかしたら意外な楽曲なのかもしれない(つーか、誰?って声も多そうだが……)。でも解散後のソロアルバムを一応3枚は聴いた者には、とても耳に馴染む素直な曲だ。いや解散前にも『月のワーグナー』とかあったか。でも私が思うに、第一次ユニコーンとポスト第一次の間で一番変化したのはこの阿部という人で、変化の内容はまさに、こんな率直な、あっけらかんと切実な曲を作れるようになったか否かだと思う。
  • つまり第一次ユニコーンと第二次ユニコーンの変化にも、阿部の変化は大きく関わっているのではないか?と思わせぶりに提示して奇跡のオープニングを聴き終える。
  • 追記:TVがいまひとつだった理由が見返してわかった。ちょっとだけどテンポが遅いんだ。ときどき止まってしまいそうな気さえしたし。