第25回 新選組誕生

  • ああそうかと、最後の最後に腑に落ちた。「俺は鬼になった」という言葉の意味がだ。
  • 私の理解力のなさがなせる業なんだろうが、途中でこの台詞が出てきたとき、いまひとつ劇的な転換だと感じなかった。やっぱり芹沢の用意した台詞に乗っかっただけじゃないの? 今回も人の後をついてくの?とどうしても思えてしまったのだ。
  • しかしそれは「鬼」というのを、ただ「目的のためには手段を選ばない非情な存在」という意味で捉えていたからなのだった。つまり土方の言う「修羅の道」と同じようなもんで。でも、それは、たぶん違う。
  • と思った理由がラストの台詞。「今以上に尽忠報国の志を持って励むこと、それが芹沢局長の御霊への何よりの慰めである」細部はうろ覚えながら。
  • 自分たちの手で暗殺を決行した翌朝にこの台詞。解釈次第では「よくもまあいけしゃあしゃあと」という、とんでもなく腹黒い印象になってもおかしくない言葉だ。が、ここでの近藤は掛け値なしに本心からそれを言った。そしてそれが近藤の勝手な思い込みでないことは、前夜の芹沢の言動で見ているこちらにもわかる。
  • 近所の子供に読み書きを教えたり剣術を教えたり、そんなのは「俺らしくねえ」と言う芹沢の、根っこの願いはやっぱり尽忠報国の志を掲げて活躍することだったはずだ。それが、自分のこらえ性のなさだとか気の小ささだとかが邪魔して上手く行かない。自分の望む発展が、自分を排除することでしか実現しないってのはつらいものだが、芹沢に最低限の分別があればそこで平和裡に身を引くこともできただろう。できなかったから、排除する役目を近藤に投げた。近藤は「芹沢の用意した台詞に乗っかった」のではなく、「芹沢の願いに応えてやった」のだ。
  • 鬼にもいろいろいる。地獄で罪人を責めさいなみ、それによって過去の罪業を洗い流してやるのも鬼だ。彼らは悪ではなく、神仏の世界に属する管理者だ。彼ら自身はそういう存在なのだから迷いもないだろう。しかし人間ならそんな役目は、心優しい人間ならなおさら、できればごめんこうむりたいはずだ。
  • 近藤さんの迷いは、最後にはそういう意味合いのものになっていたと思う。そこを抜けて、誰かが今の混沌を収めねばならないという気持ちが誰をも傷つけたくないという気持ちに勝って、彼は苛烈なる管理者、つまり、鬼になったのだ。というのが、今の私の解釈である。